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長崎地方裁判所 昭和30年(ワ)53号 判決

原告 株式会社十八銀行

右代表者 清島省三

右代理人弁護士 林田菊治

被告 長崎文化企業株式会社

右代表者 相島政人

右代理人弁護士 中山八郎

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、成立に争のない甲第一号証及び乙第一号証と証人淵木保次、同青木周義、同道山慎一、同林田守衛の各証言及び被告代表者の供述とを綜合すると、

本件物件は、元、被告所有の常設映画館第一国際映画劇場(元若草劇場と称せられ、その後、国際映画劇場と改められ、更に、第一国際映画劇場と名称が変更されて、現在に至つて居る常設映画館(建物及び附属設備一切を含む)(トーキー映写用機具一式をも含む)の附属設備の一部として、同映画館に備付けられてあつたトーキー映写用機具一式であつて、被告は、同映画館に於て、常設トーキー映画興行を直営して居たのであるが、昭和二十三年二月一日から、之を、(建物及び附属設備一切―トーキー映写用機具一式をも含む)、訴外国際映画劇場株式会社に賃貸し、昭和二十八年一月三十一日頃、その返還を受けたこと、而して、右訴外会社に賃貸中は、同会社が、之に於て、常設トーキー映画興行を直営して居たものであるところ、同会社は、その営業資金に窮した結果、原告から融資を受けることになつたのであるが、その際、同会社は、その所有者たる原告の承諾を得ることなく、勝手に、本件物件を、右映画館に備付のままで、その担保として、原告に譲渡したこと、及びその後、本件物件は、右映画館に備付のままで、右訴外会社から被告に返還されたが、昭和二十九年秋頃に至り、同映画館から撤去されて、原告が、その引渡を受けるに至つたこと。

を認定することが出来る。

前顕各証拠中、右認定に反する部分は、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

二、右認定の事実によると、本件物件は、前記映画館から撤去されて原告に引渡されるまでは、その附属設備の一部として、同映画館と一体を為して居たものであると認められるので、それが、右映画館から撤去されるまでは、独立した一個の物たる性質を有せず、不動産たる右映画館の一部となつて居たものであると認めるのが相当であると認める。

三、そうすると、前記訴外会社が原告に対して為した前記譲渡は、無権利者によつて為された他人所有の不動産の一部に対する処分行為であると解せざるを得ないのであるから、それによつて為された処分は、所有者に対する関係に於ては、無効であると云はなければならない。

従つて、前記認定の譲渡が為されて居ても、原告は、之によつては、本件物件の所有権は之を取得し得なかつたものであると云はなければならない。

尤も、前顕各証拠を綜合すると、被告が本件物件の返還を受けて後、原告に対し、形式的には本件物件の買戻方の交渉と認められる様な行為を為した事実のあることが認められるのであるが、これは、後記認定の事情によるものであることが、後記認定の事実によつて、知られるので、右認定の事実があつたからと云つて、被告が、前記訴外会社の譲渡行為によつて、原告が、本件物件の所有権を取得したことを承認し、又は、右訴外会社の右譲渡行為を追認したことにはならないのであるから、右認定の事実のあることは、原告が、右訴外会社の右譲渡行為によつて、本件物件の所有権を取得したことの証左となるものでないこと勿論である。

四、被告が、原告に対し、前記認定の様な行為に出たのは、被告代表者の供述によつて、以下に認定の事情あることによるものであることが認められる。即ち、

被告会社は、本件物件を、前記訴外会社から、返還を受けた後に於ても、同会社が、債務の担保として、本件物件を原告に譲渡したと云ふことは知らなかつたのであるが、その返還を受けて後、暫くして、原告から、被告に対し、原告の右訴外会社に対する貸付金の返済引受方の申入があつたので、被告が、之を拒絶したところ、原告から本件物件の引渡方の請求があつたので、その理由を質したところ、右訴外会社が、原告に対する債務の担保として、本件物件を原告に譲渡する旨の契約を為した事実のあることが判明した。併しながら、被告は、その様なことに関与したことなど全然なく、而も本件物件は、被告の所有であるから、右訴外会社によつて、右の様な契約が為されても、それは無効であつて、原告が、本件物件の所有権を取得する謂れはないと思料し、原告に対し、その旨を主張したものの、之を表沙汰にして、原告と争ふと云ふことになれば、右訴外社の社長訴外佐藤岩吉が、不法な行為を為したものとして、困難な立場に立たざるを得なくなるので、この様な事態に立ち至るのを避け、事を穏便に解決する為め、被告に於ては、本件物件を、欠損として、財産目録から落した上、改めて、原告から、之を買戻すと云う形式で、金員の支払を為すことと決し、之に基いて、原告に対し、本件物件を買戻すと云う形式で、支払うべき金員の額の決定について、その交渉を為すに至つたものであること。

が認められる。

証人渕木保次、同木下周義、同道山慎一の各証言並に乙第一号証の記載中、右認定に反する部分は、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

五、而して、右認定の事実と、前顕証人渕木保次、同木下周義、同道山慎一、同林田守衛の各証言並に被告代表者の供述及び乙第一号証を綜合して、認められるところの、(右各証人の証言並に乙第一号証中、この認定に反する部分は、措信し難く、他に、この認定を動かすに足りる証拠はない)、前記の次第で、原告に対し、その交渉を為したところ、本件物件の価格の点で、両者間の折合がつかず、結局、その交渉は、不成立に終り、その後、約一年を経過した昭和二十九年秋頃に至り、原告に於て、本件物件を、被告から、取上げて、自ら、之を引取つたのであるが、その際、被告は、その引取を拒絶し、若くは、之を拒絶したと認め得べき何等の措置をも為すことなくして、原告が、その引取を為すことを黙諾し、結局、原告が本件物件を引取つたことを、被告に於て、承認したこと、及び被告が、前記交渉を為すについては、その金額を五十万円程度として、原告に申入れたところ、原告は、前記訴外会社に対し、百万円以上の融資を為して居るので、被告申出程度の金額では、その申入に応ずることが出来ないとして、之に応じなかつた為め、結局、両者間に於て、金額の点について、折合がつかず右交渉が不成立に終つた事実と、前記認定の前記訴外会社の譲渡行為によつては、原告に於て、本件物件の所有権を、取得し得なかつた事実と弁論の全趣旨とを綜合して、考察すると、被告が、原告の為した本件の引取を承認したことは、被告が、それによつて、本件物件を原告に引渡すと共に、被告に於て、前記訴外会社の為した、前記無効の譲渡行為を追認し、若くは、被告が、第三者として、前記訴外会社の為めに、同会社が、原告に対し負担して居た、債務の代物弁済として、その所有権を原告に移転する旨の意思表示を為したものと解せられるので、本件物件の所有権は、右引渡の時に於て、初めて、原告に移転したものと解するのが相当である。従つて、本件物件の所有権は、その時までは、被告にあつたものであると解せざるを得ないものである。而して、その引渡の為された日が、昭和二十九年九月十八日であつたことは、原告の自認するところであるから、本件物件の所有権は、右の日に原告に移転したものと云ふべく、従つて、それまでは、その所有権は、被告にあつたものと云はなければならないから、原告主張の当時に於ては、本件物件の所有権は、原告になかつたものと断じなければならない。

六、然るところ、原告の本訴請求は、その主張の当時、本件物件の所有権が原告にあつたことを前提とするものであるところ、その前提の理由のないこと右の通りであるから、爾余の点についての判断を為すまでもなく、失当として、排斥されることを免れ得ないものである。

七、仍て、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

〈以下省略〉

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